このブログでは、猛禽類を健康で美しく保つための飼育について解説しています。
ここでお伝えする内容は、単なるマニュアルではありません。
長年の飼育経験の中で見えてきた
「命を預かる者としての在り方」
を土台にした考え方です。
知識や技術はもちろん大切ですが、
それ以上に重要なのは
どんな姿勢で猛禽と向き合っているか
です。
この連載が、あなたと猛禽の関係をより深く、より良いものにするきっかけになれば幸いです
第1回|餌:単食が招く“静かな不調”多様性が健康をつくる
猛禽類の飼育において
最も意識が向きやすく、
同時に最も誤解されやすいのが「餌」です。
何を与えるか、どれくらい与えるか。
多くの飼い主さんがここに強い関心を持ちます。

しかし本当に重要なのは
**「何をどれくらい与えるか」よりも、
「どういう考え方で与えているか」**です。
■猛禽類は肉食動物だが「単純」ではない
猛禽類は肉食の鳥です。
飼育下で与えやすい餌としては
・ヒヨコ
・マウス
・ウズラ
が一般的でしょう。
ここで多く見られるのが
「うちはヒヨコだけ」
「マウスだけの方が管理しやすい」
といった単食飼育です。
結論から言えば、
単食は決して良い選択ではありません。
■それぞれの餌には役割がある
ヒヨコ、マウス、ウズラ。
これらはすべて「肉」ですが、
中身はまったく同じではありません。
・骨の比率
・内臓の量
・皮膚・羽毛・被毛
・脂肪の質
それぞれに長所と短所があります。
野生下の猛禽類は
一種類の獲物だけを食べ続けることはありません。
小動物、鳥類、爬虫類、昆虫類。
捕れるものを捕り、
結果的に栄養の偏りを防いでいるのです。
飼育下では野生ほど多様な獲物を用意する事は出来ませんが、出来る限り種類を増やし、バランス良く与えることが健康維持の基本となります。

■単食が招く「目に見えないズレ」
単食飼育の怖さは
すぐに不調として現れない点にあります。
・羽艶が徐々に落ちる
・便の状態が安定しない
・食欲にムラが出る
・なんとなく元気がない
こうした変化は
病気として認識されにくく、
「個体差」「年齢のせい」で片付けられがちです。
しかし多くの場合、
栄養の偏りが少しずつ蓄積した結果です。
■昆虫類が示す重要なヒント
野生下の猛禽類は
小型に限らず、中型・大型種であっても
昆虫類をよく捕食します。
これは
「仕方なく食べている」のではありません。
昆虫類は
ミネラルを補う重要な役割を担っています。
飼育下で昆虫を与えているケースが少ないのは
・大型昆虫が手に入りにくい
・昆虫が苦手
といった理由が多いでしょう。
しかしこの部分が欠けることで、
飼育下ではミネラル不足が起きやすくなるのです。
この点については、
次々回の「ミネラル」の回で詳しく解説します。
■与える量に「正解」はない
「毎日この量を与えなければならない」
この考え方も、一度手放してみて下さい。
・よく食べる日
・あまり食べない日
があるのは自然なことです。
季節によっても、
個体によっても、
必要な摂餌量は変わります。
大切なのは
1日単位ではなく、週単位で見ることです。
・1週間でどれくらい食べたか
・体重がどう推移しているか
出来る限り記録を取り、
「自分の個体の基準」を作りましょう。
■加工肉が適さない理由
スーパーで売られている
ササミなどの加工肉を与えるのは
おすすめ出来ません。
・内臓がない
・骨がない
・本来摂取する要素が欠落している
からです。
「肉だから大丈夫」という考えは、
猛禽類には当てはまりません。
■野生で捕った獲物を与えない
飼育下の猛禽類には
野生で捕獲した獲物を与えない方が安全です。
どのような
・ウイルス
・細菌
・病原体
を持っているか分からないためです。
健康を守るためには
リスクを持ち込まない判断も重要な飼育技術です。
■餌は「体を作る土台」
餌は
体重を維持するためだけのものではありません。
・羽
・骨
・内臓
・免疫
すべての土台になります。
バランス良く与えられていれば、
1日や2日食べなくても
大きな問題になることはありません。

■「満腹であること」が正常とは限らない
猛禽類は肉食動物です。
そして肉食動物において「太っている」という状態は、私は正常ではないと考えています。
野生のネコ科動物を見れば分かる通り、
どの種も例外なく引き締まった体をしており、非常に機敏に動きます。
これは見た目の問題ではなく、
生きるために最適化された身体状態です。
■ 野生では「毎日満腹」はあり得ない
野生環境では、毎日安定して獲物を得ることはほぼ不可能です。
狩りが失敗する日もあり、
結果として肉食動物は常に軽い飢餓状態を行き来しながら生きています。
つまり肉食動物は
常に満腹でいる前提では進化していません。
■ 肉食動物は「飢餓を含むサイクル」に適応している
これは感覚的な話ではなく、
動物実験の分野でも見られる現象です。
ラットやマウス、鳥類などでは
・自由に餌を与えた群
・食事量を管理した群
を比較すると、食事量を管理した群の方が
✔ 体脂肪の過剰蓄積が抑えられる
✔ 代謝が安定する
✔ 身体機能が維持されやすい
✔ 寿命が延びた
といった傾向が確認されています。
猛禽類そのものの研究は少ないものの、
肉食動物や鳥類が「飢餓を含むリズム」に適応しているという点は
多くの動物種に共通する特徴です。
■ 飼育下は「不自然なほど安定した満腹環境」
一方、飼育下では
・毎日確実に餌が用意され
・空腹になる前に給餌され
・満腹状態が当たり前になりやすい
これは安全ではありますが、
野生環境とは真逆の条件でもあります。
■ 生後1年以上の健康な個体には「餌を与えない日」も必要
そのため私は、生後1年以上経過した健康な猛禽類には
意図的に食べない日を作ることが必要だと考えています。
これは「かわいそう」なのではなく、
本来の肉食動物の身体リズムを取り戻すための調整です。

■ 実践の考え方
✔ 週に1〜2回の軽い給餌制限
✔ もしくは餌を与えない日を設ける
目的は痩せさせることではありません。
👉 野生で生きられる身体状態を維持すること
👉 過剰な脂肪と代謝の鈍りを防ぐこと
これが本来の狙いです。
✔ どの管理方法にも絶対の正解はありません。
必ず個体を観察し、その反応を基準に調整してください。
まずは、今の環境を振り返ってみましょう
🦅 第1回チェックリスト|餌の管理
日々の給餌を
「なんとなく」ではなく
観察に基づいた管理へ変えていくための確認項目です。
当てはまるかどうか、定期的に見直してみてください。
🥩 餌の種類について
☐ ヒヨコ・マウス・ウズラなど、複数種類の餌をローテーションしている
☐ 1種類だけを長期間与え続けていない
☐ それぞれの餌の特徴(骨量・脂肪量など)を把握している
☐ 昆虫類や他の補助的な餌についても意識している
⚖ 食べる量の管理について
☐ 「毎日同じ量」にこだわっていない
☐ 食べる日・食べない日があることを自然なこととして捉えている
☐ 1日単位ではなく、週単位で摂餌量を見ている
☐ 体重の推移を定期的に測定・記録している
🧠 満腹にさせすぎていないか
☐ 常にそのうがパンパンになるまで与えていない
☐ 「太っている=健康」と考えていない
☐ 動きが鈍くなっていないか観察している
☐ 生後1年以上の健康な個体に、食べない日や軽い制限日を設けている
🧬 餌の“質”について
☐ 加工肉(ササミなど)を主食として与えていない
☐ 内臓・骨・皮膚など、丸ごとの栄養が摂れる餌を与えている
☐ 鮮度の落ちた餌を与えていない
☐ 野生で捕獲した獲物を安易に与えていない
👀 観察が出来ているか
☐ 羽艶の変化に気付けている
☐ 便の状態の変化を見ている
☐ 食いつきのムラを記録している
☐ 体重だけでなく「動き・反応」も見ている
✔ いくつ当てはまりましたか?
すべて完璧である必要はありません。
大切なのは
**「気にして観察しているかどうか」**です。
次回は
「水:軽視されがちな最重要要素」
について解説します。
水は単なる水分補給ではなく、
羽の美しさ、排泄、食欲、そして体調全体に関わる
見落とされやすい重要な要素です。
ここを理解すると、
猛禽類の状態の読み取り方が一段深くなります。